
連載
(1)爆心地のエプロン8つのポケット
小林エリカ
朝、目が醒めて鏡を見ると、やっぱり私の頭の右側の髪はごっそり抜けていた。耳の後ろから頭頂までが、半分すっかり禿げあがっている。 私の長い髪が抜け始めたのは、冬のことだった。なんとなしに身体がだるい。起きあがるのが辛いことも多かったから、更年期かも知れないと考えた。しかし、あまりにも髪がごっそりと抜け落ちるようになったから、さすがに不安になった。病院を幾つも回っても、原因は不明。すっかり困り果て、禿

場所:名古屋の祖父の家
日時:1985年夏
あなたは、長崎の爆心地公園で、あなたの祖母のことを、話してくれた。
実は母方の祖母が長崎の出身なんだ。祖父の後妻さんだから血の繫がりはないのだけれど。
あなたの祖母は名古屋へ嫁いでいて、あなたは彼女と一緒に長崎へ行ったこともなかったから、あなたは長崎のことを何も知らない、という。
ただ知っているのは、彼女のソウルフードがカステラだということ。
泊まりに行くといつも、おやつに福砂屋のカステラを出してくれた。
福砂屋のは持つと重いのよ。
カステラは重さがあるのが大事で、そうでないのはダメなんだ。
◯
2025年8月8日の長崎爆心地公園にて
(つづく)
(6)カステラの重さについて

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(1)爆心地のエプロン8つのポケット
小林エリカ
朝、目が醒めて鏡を見ると、やっぱり私の頭の右側の髪はごっそり抜けていた。耳の後ろから頭頂までが、半分すっかり禿げあがっている。 私の長い髪が抜け始めたのは、冬のことだった。なんとなしに身体がだるい。起きあがるのが辛いことも多かったから、更年期かも知れないと考えた。しかし、あまりにも髪がごっそりと抜け落ちるようになったから、さすがに不安になった。病院を幾つも回っても、原因は不明。すっかり困り果て、禿

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(2)音のない肉体
小林エリカ
スケッチ1 ワンピースの白い生地はそのまま残り、小花模様の色濃い部分だけがみんな焼け焦げ抜け落ちていた。原子爆弾が炸裂したとき、そのワンピースを着ていた少女の肌は、模様の部分だけ焼けたという。 私は、そのワンピースが展示されているのを、あるいは写真で見たのだったかもしれない。光は白に反射し、黒に吸われる。原子爆弾の光線もおなじだということを、私はそのときはじめて理解した。 ワンピースの袖の下、

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(3)スケッチ1
小林エリカ
スケッチ1 ワンピースの白い生地はそのまま残り、小花模様の色濃い部分だけがみんな焼け焦げ抜け落ちていた。原子爆弾が炸裂したとき、そのワンピースを着ていた少女の肌は、模様の部分だけ焼けたという。 私は、そのワンピースが展示されているのを、あるいは写真で見たのだったかもしれない。光は白に反射し、黒に吸われる。原子爆弾の光線もおなじだということを、私はそのときはじめて理解した。 ワンピースの袖の下、

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(4)SEAGULL/かもめ
小林エリカ
西浩孝さん 場所:爆心地公園とその向かいのラブホテル「SEAGULL」 時:2017年春 あなたは長崎へやってきたばかりで、職のない状態で、一歳の子どもを抱いて桜の花が咲くか咲かないかの頃の爆心地公園にいて、向かいにあるラブホテル「SEAGULL」を見ていた。 ピンク色の建物に、波模様を配した大きな看板。建物の駐車場入り口には、のれんのようなゴム製の目隠しがぶら下がっている。 年配の男とおそらくデ

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(5)トトロの庭
小林エリカ
直実さん 場所:広島安佐南区家の庭 時:2006年夏 あなたは広島へやってきてはじめて、かつてテレビで観た映画『となりのトトロ』の中の雑草が全部本当にある草なのだということを知る。それがあなたにとっての広島だった。 ムラサキツユクサ。ドクダミ。シロツメクサ。オオバコ。スギナ。外来種のポピー。それから、外来種のタンポポ。 あなたは大阪西成区のアスファルトしかない場所で育ったから、学校や公園なんかでし