(4)SEAGULL/かもめ

西浩孝さん

場所:爆心地公園とその向かいのラブホテル「SEAGULL」

時:2017年春

SEAGULL/かもめ
SEAGULL/かもめ

あなたは長崎へやってきたばかりで、職のない状態で、一歳の子どもを抱いて桜の花が咲くか咲かないかの頃の爆心地公園にいて、向かいにあるラブホテル「SEAGULL」を見ていた。

ピンク色の建物に、波模様を配した大きな看板。建物の駐車場入り口には、のれんのようなゴム製の目隠しがぶら下がっている。

年配の男とおそらくデリヘルで働いているとおぼしき若い女が出てきて、ラブホテルのすぐ前には送迎のトヨタの車が待機している。

あなたは「爆心地のラブホテル」というもののインパクトと、それが愛なのか金なのかはわからないが、セックスという生の行為と、おそらく絶対その下に埋まっているだろう白骨、およそ人間らしくなく殺された人たちがいるという死のコントラストに、衝撃を受けたのだった。

あなたの地元は富山で、長崎には何の縁もゆかりもなかった。

あなたは、東京で働いていたのだが、妻が長崎で仕事を得ることになったため、あなたは仕事を辞め、妻と半年前に生まれたばかりの子どもと一緒に長崎へ来た。

はじめ、あなたは、長崎の新聞やテレビが、ほぼ毎日、原爆や平和のことを報道していることに、驚く。

はじめ、あなたは、浦上駅のすぐそばに「長崎原爆病院」という名前の病院があることに、驚く。

あなたは、何度か長崎の街の人が、原爆は「長崎に落ちたんじゃなかよ、浦上に落ちたんよ」というのを聞いて、驚く。あなたは、その人たちが、あの人たちの場所と、自分たちの場所とを、区別することを、知る。

それから、あなたは、みんなが長崎、というとき、長崎の街だけをさすことを、そこには佐世保だとか、他の長崎の街々が含まれていないことを、知る。

長崎で暮らしはじめてから、およそ九年。

あなたは、あなたがいまだよそものだと感じる。

ぼくはなじんでないっていうか。どうしても外の目で長崎を見てしまう。爆心地公園なんかは、もう慣れてすどおりしてしまうんですけどね。

あなたは、デリヘルで働く女の子とも知り合い、話を聞いた。

彼女がラブホテル「SEAGULL」へ行くかどうかは知らないが、仕事で一日に何度も洋服を脱ぎ着しなければならないから基本的にはダボッとしたワンピースやパーカーを着るのだということを、教えてくれた。

あなたは、しばしば原爆資料館のカフェへ通っており、その際には必ず、爆心地公園を通る。原子爆弾落下中心地碑の木々の向こうに、ラブホテル「SEAGULL」の看板が覗いて見える。

あなたは、白骨の上を歩く、あなたは、生きている。

一歳の子どもを抱いていた西浩孝の肖像
一歳の子どもを抱いていた西浩孝の肖像

◯

2025年8月8日の長崎県美術館カフェにて

協力
長崎県美術館、アートバス〈爆心へ〉号

(つづく)


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