連載作品作品作家読者の言葉
読者の言葉作家作品連載作品
XInstagramTikTokYouTube
U-NEXT
WEB文芸誌 文学茶釜(何が出るかな)
  • X
  • Instagram
  • TikTok
  • YouTube
U-NEXT

© 2026 U-NEXT Co., Ltd. All rights reserved

Cover Illustration: ©Shishi YamazakiCharacter Illustration: ©DAISUKE KONDO

夏の不調の花束を
#日常#健康#暮らし
エッセイ2026/09/05

四十七歳の不調

夏の不調の花束を

古賀及子

ある夜、足が熱かった。

そろそろ寝ようと横になる。疲れているしすぐに眠れるだろう。けれど、どうにも足のあたりに違和感があって寝つけず、足の裏が妙に熱いのに気がついた。痛いわけではないから、我慢しようとすればできてしまう。シーツの冷たいところを探したり、ベッドの柱に当てたりして冷やして、それでうとうとしてはまた熱っ! と覚醒するのを繰り返した。

そのうちようやく、このままではだめだ、朝まで寝られないとわかった。よろよろ台所まで行って冷凍庫から保冷剤を出してタオルで巻いて持ってきて、足の裏に当たるように置いて冷やしたところ、やっと寝た。

暑いのではない、熱い。発火するような具合で、汗は出ない。この日だけでなく、たまに現れる症状だ。発生は夜が多いけれど、日中のこともある。

よく手足の熱さに、火照ほてるという言葉を当てるけれど、この場合ちょっと当てはまらないような、とにかく純粋にただ熱いだけなのだ。炎症を起こしている、熱を持っているのともまた違って、じんじん、とか、ずきずき、というのではなくて、とにかくカッカする。腫れてもいないし、赤くなっているわけでもない。ただ熱く、その熱がどこから来ているのかわからない。外側から炙られているのでも、内側に火種があるのでもなく、わけもなく熱い足がここに有ってしまった、そんな感じだ。

バーニングフィートとか、灼熱脚症候群という症状なんだそうだ。

さてはこれは更年期の何かなんじゃないかと受診した婦人科でそう伝えられ、私の実感と完全に一致した名称であることに大きな手応えがあった。なんて足だけ熱そうな名前なんだ。思った通り、更年期症状のひとつらしい。
今年、47歳を迎えて以降、急に生理周期がこれまでになくダイナミックに躍動するように、つまり間隔が異様に開いたり逆に狭まったりするようになった。あ、これきっと更年期だと、すでに婦人科で何度か相談していたものだから、話も早かった。

もともとむくみやすい私の場合、推察するに血行不良と、更年期特有のホルモンバランスや自律神経の乱れからきているのでは、とのこと。どうしようもないといえばどうしようもなく、と同時に、今すぐ心配するような症状ではないそうで、一安心ではあるものの、それにしても熱い。

どうしたらいいですかと聞くと、冷やせばいいという。それでいいんだ。すでに冷やして紛らわせてはいたものの、そんな単純な対処でいいのかなと少し心配もしていた。
子どものころから今までずっと皮膚が弱い。かゆいときにひっかくと、余計ひどくなることは幼い頃から今までずっと経験してきたことだ。熱いなら冷やすというのは、かゆいから搔いているみたいに、もしかしたらさらに熱くするのではないかと思っていた。
ただ、あんまり冷やしすぎては血行が悪くなることもあるから、一旦改善したらマッサージをするとか、血行を改善するように対処するといいともアドバイスされた。

ところで、相談に乗ってもらったこの婦人科は、患者が更年期に入ったと見るやいなや、骨に対して面倒見の良さを最大限発揮し出した。優しい医師から、さあ更年期、骨を大事にするのを忘れないで、とこれまでも度々声をかけられてきた。女性は更年期に骨がもろくなりやすいということは薄い知識としては持っていたけれど、それほど危機感は感じていなかったし、婦人科で骨骨言われるのも意外で印象深く、なんとなく程度にはカルシウムを摂るようにしてきた。

灼熱脚症候群と骨密度の低下は、更年期の諸症状というだけで、両者に直接の関係はないそうだけど、先生はピンときたらしい。きっと危ないから、ついでに検査しておきましょうとすすめられ、急遽、踵かかとの骨に超音波を当てる骨密度の検査をすることになった。
骨に熱心な医師の予感はさすがだ。同世代比82%という低い骨密度を思いもよらず叩き出してしまったのだった。多少カルシウムを摂るくらいでは間に合っていなかったようだ。

まだ骨こつ粗そ鬆しょう症しょうと診断するレベルではないけれど、十分危険水域だから、いよいよちゃんと骨密度を高める努力をすべきであると、食事や運動の指導をしてもらったのだった。

先日、高校生の娘が、数年前に放送された医療ドラマをNetflixで観ているところに居合わせた。物語の前後の流れをまったく知らない状態で観たのが、高校の女子生徒が医師に骨粗鬆症であると診断されているシーンだった。ドラマというのはそこだけ見ると、そりゃそうだけど、いつだって唐突だ。
骨粗鬆症というのは年寄りがなるものではと驚く高校生。医師は、若くてもダイエットなどで生理が来なくなり、女性ホルモンが低下することで骨密度が低下するおそれがあるというようなことを説明しており、まさに私が婦人科の先生に言われた理屈だ! と画面を二度観する。女子高生は厳しいダイエットで生理が来なくなり、いっぽう私は更年期で生理周期が暴れん坊になって、お互いに骨密度が下がったわけだ。

それからは、気がつく度に地面に踵を打ち付けて歩くようになった。横断歩道で信号が青になるのを待つ時は、つま先立ちをして、どすんと地面に踵を落とす。それが骨にとって良いらしいのだ。
骨に縦方向に衝撃を与えることによって、骨の側が「なまけずに、ちゃんとせねば」と思うんだそうだ。家は誰も住まなくなると荒れると言うけれど、骨も使わなくなるともろくなるということらしい。必要とされなければ拗すねるんである。物も骨も、それに人だってそうだ。お前は大事な存在だよと、励ましてやるしかない。

更年期といえば、春の終わりに体重が1週間ほどの間に急に3キロ増えたのも、あとから更年期がらみだと判明して、さすが、噂に聞いて身構えてきたあの更年期だけあると唸らされた。

3キロである。どこか旅行に出かけて美味しいものに囲まれたとか、外食が続いて食べすぎたわけじゃない。朝は卵と野菜と少しのパンを食べ、昼は昨晩の残り物を食べ、晩は納豆ご飯と肉か魚を野菜でなんとかしたおかずを食べる。外食に出かけることもあるけれど稀まれで、いずれにせよ私はどうしても胃が小さくて少食なものだから、暴飲暴食というのをやろうとしてもなかなかできない。甘いものが好きで間食はするけれど、それにしても限度はある。覇気のない食生活を送っているのだ。この生活でどうしたら一気に3キロ増えられるのか。人間の可能性には驚くばかりで、そんなわけなくないですかと、逆ギレしてみれば、その裏に更年期がいるのだからもう仕方がない。

もともと私は、生理の前に体重が落ち、生理が始まると増えて、その後、排卵期までキープして、排卵直後にするっと体重が減るというのを長らく繰り返してきた。一般的にはこの逆で、生理前に体重が増えて、生理後に減ることが多いと聞いたことがあるけれど、私はどうやら体質的に真逆らしい。

それが更年期に突入し、生理周期がホルモンベースで大幅におかしなことになった。体重が3キロ増え切ったころ、同時にひと月に2回も生理のような経血が来るという体の盛り上がりを体験し、体重ではなく経血の方を相談するのに例の婦人科を受診して、ちょうど血液検査を受けていた。結果、3キロ急増したぴったりこの時期に、エストロゲンと呼ばれる女性ホルモンの値が、異様な数字を叩き出していたのだ。それよりも前の検査では、エストロゲンはもはや枯渇しているという結果だったのが、噴出していた。

エストロゲンには体内に水分を溜め込む働きがあるという。これは医師の解釈ではなく私の推測だけれど、増えた3キロのほとんどが水だったんじゃないか。

「水を飲んでも太る」という言葉がある。「そんなわけはない、自分でも気づかないうちに食べているのだろう」という返しとセットになっている言葉だけれど、生理周期による強力すぎる体重の増減にまったく抗えない経験がある者としては、「水を飲んでも太る」は、言説として信じていたし、今回のことでいっそう本当のことだと思えた。3キロ増えゆく最中も、水でどんどん体が重くなっていくような体感があった。

なんなんだと思わされたのは、1週間ほどかけて3キロ増えた体重は、1ヶ月キープしたあと、あるとき5日かけてしゅっと3キロ減って、元に戻ったことだ。これは、噴出したエストロゲンが、ある日を境に急下降したんじゃないか。いずれにせよ、ホルモンの謎の運動によって、私の体は水分を抱えたり手放したりしていたようだ。ちょっとやることがマジカルすぎる。

子どものころ、母に連れられて母の高校時代の友人の家をたずねたことがあった。当時まだ未就学児だった私よりも年上の、小学校3年か4年くらいの子どもがいて、私に手品を見せてくれるという。
丸めた新聞紙の上から水をそそぐと、注いだ水がすぐには下から出てこず、呪文とともに流れ出すというものだった。3キロの水分が、一旦体にとどまっていたのだなあと思ったとき、ずっと忘れていた、この新聞紙の手品のことを急に思い出した。

3キロの増減に触れ、私という肉体の、まだ見ぬ挙動に感心した、その次の瞬間、今度は眉間が痒くてたまらなくなった。

とにかく眉間だけ、眉毛と眉毛のあいだの、2センチ四方くらいの狭い範囲が痒い。ずっと痒いわけではなく、集中して仕事をしているときに、急に強い痒みが出ているのに気づく。集中しているものだからつい搔いて、しまったと、手を引っ込めることが何度も続いた。

本連載では前回、鼻筋の真ん中が突如腫れたことがあったとお伝えした。その時に医師から、どこかからばい菌が入って炎症を起こしたのだろうという話があり、しかし鼻筋を腫らすのに一体どこから入ればいいのか、ばい菌の気持ちになってもまったく分からなかった。今度は眉間だ。鼻筋から少し顔面を上にあがって、これもまた、なんでここだけが痒くなり得るのか。今度は誰がどうやって入ったのだろう。

ただ痒いだけで、ただれるとか痛いといったこともない。しばらく様子を見てもよかったのだけど、あまりにも不明で意味がわからなすぎるため、この謎を解きたいという気持ちで早々に皮膚科にかかった。

鼻筋の炎症よりもこの症状はずっと原因がクリアだった。脂し漏ろう性せい湿しっ疹しんだろうと医師は言う。あっぱれなことに、原因は女性ホルモンの減少が考えられるというじゃないか。なんとまた更年期症状だ。
女性ホルモンが減ることで、男性ホルモンの影響が強まって、皮脂が出やすくなって皮膚が反応しているのではないかとのこと。脂漏性湿疹は頭皮やおでこに出ることが多いそうで、けれど眉間に起こるのも珍しくはないのだそうだ。

点と点を、更年期が丁寧に丁寧に線でつないでいく。紡いでいると言ってもいい。いや紡ぐな。織りなさなくていい。静かにしといてくれ。出してもらった塗り薬を言われたとおりに塗ったところ、すぐには治らなかったものの、じわじわと改善していった。

眉間をむずむずさせながら、同時にもうひとつ困らされたのが耳の奥の痛みだった。

娘と私は恋愛リアリティショーの『バチェロレッテ』シリーズの大ファンで、今春配信されたシーズン4もそれは楽しみに観た。バチェロレッテとして登場するひとりの女性をめぐって、十数人の男性がさまざまなアプローチで愛を訴えるというのが番組の内容で、シーズン4のバチェロレッテの平ひら松まつ里り菜なさんの、飾らなくも自然と立ち上がってしまう気高さに、娘も私もすっかり夢中であった。
一気に観てしまわずに、1日1本ずつ観るのが娘と私の間の約束事で、この日も楽しみに前日の続きを観て、けれど番組が進むに従って、なんだか、顔を触ったときに変な感覚があることに気がついた。

顔の右半分に薄い痛みを感じる。ただ、どこが痛いのかがわからない。顎の奥のような、頭のような気もして、しびれているようにも感じる。とくに娘に訴えるほどのことでもなく、『バチェロレッテ』を見終えて、風呂に入って、髪の毛を乾かして、寝る前に、この痛みが耳の奥から来ているのだとやっとわかった。中耳炎かなにかだろうか。

痛みは数日薄っすら続いた。常時痛むのではなく、1時間に2、3回、キョリッと、耳の奥の奥の方に刺すような痛みが走る。ちょうど週末で耳鼻科が休みで、週明けにもまだ痛いようだったら病院に行ったほうがいいだろうかと思ううちに、痛みは消えてなくなった。

生来の鼻炎持ちで、強く鼻をかんで人生をやりすごしてきたものだから、耳もあまりいい方ではない。けれど中耳炎には縁遠く、耳の痛みは慣れたものではなかったから、症状としては悪い意味で新鮮だった。しかし、さすがにこれは更年期とは関係ないだろう。
耳の痛みだと気がつく前に、顔がしびれて痛いような感覚があったのもこれまでにないことで、顔周辺が違和感の空気に包まれるような初めての不調だった。

私は貧血ぎみでもある。面倒見のいいあの婦人科の先生は、骨とともに、血にも気を配ってくれる。更年期の診察を受けてすぐの頃、フェリチンと呼ばれる、体内の鉄の蓄えを調べてもらったことがあった。結果は、正常範囲内ではあるもののぎりぎり下限で、骨はもちろん、血もしっかりねと言われてきた。レバーは大好きだから、精力的に買って食べて、小松菜や納豆もできるだけ欠かさないようにしている。

耳の痛みが消えた頃、年に一度受けている健康診断の日がやってきた。受診のちょうど前日、しゃがんだ状態から立ち上がった際に、強い立ちくらみがあった。立ちくらみは以前からよくあって、きっと貧血だからだろうと、なんとなく医師の問診の際に「貧血で、よく立ちくらみをするんです」と伝えたところ、立ちくらみは貧血とはあまり関係がないと言われた。

しゃがんだところから立つとくらっとする、そのこと自体を起立性低血圧と呼ぶらしく、先生によると「自律神経の乱れなんかが関係しているとよく言いますね」とのこと。自律神経の乱れ……知っているぞ、あの、灼熱脚症候群の原因として複数説明があったなかにいたメンバーだ。

自律神経というのは、ホルモンバランスとともに、二大どうしたら整うのかよくわからない物として目の前に立ちはだかる。いったい、どうしたらいいんだろう。検索したところ、シンプルな改善方法として「朝日を浴びる」というのが出た。体内時計がリセットされることで、自律神経が整うのだそうだ。

古いドラマなんかで、朝が来たことの演出に、シャッとカーテンを明けてうーんと伸びをするというのがある。あまり現実社会的な行動ではないように思われ、粗野な私などにはない習慣だったけれど、今こそあれを実践すべきか。

足が燃える、骨がもろい、体重が急に3キロ増えて3キロ戻った、眉間がかゆく、急に耳の奥の奥が痛み、貧血ぎみで、起立性低血圧で立ちくらみがあり、自律神経の乱れが疑われる。ここ2ヶ月ほどでこの身に起きた不調について、逃さないように積極的に収集に励んだことにより集まった数々だ。

すでに軽快した症状もあるし、ひとつひとつは大したことではないから、こうしてわざわざ束ねなければ、ただの日々の些事として過ぎていってもう忘れてしまったようなことだなと思う。初夏の不調の花束である。

次は何が起こるのだろう、想像もつかない。とにかく今は、更年期のうごめきに耳をすませて、朝はシャッとカーテンを開け、伸びをする。燃えたところを冷やした足で、踵を地面に打ち付け歩いていこう。

(了)

あなたの考えを共有し、他の人の考えに耳を傾けてみましょう。

他の読者からのコメント0件。

感想を読む感想を送る
四十七歳の不調

夏の不調の花束を

疲れて鼻筋が腫れ痛い、思てたんと違うprevious

疲れて鼻筋が腫れ痛い、思てたんと違う

次回連載予定日:10月5日 12:00

この連載の作品

疲れて鼻筋が腫れ痛い、思てたんと違う
疲れて鼻筋が腫れ痛い、思てたんと違う
エッセイ

2026/08/05 連載

疲れて鼻筋が腫れ痛い、思てたんと違う

古賀及子

2024年の春、鼻筋の真ん中が腫れた。 最初は何が起こっているのかよく分からなかった。以前から、たまになにかの拍子に小鼻が腫れて固くなり、押すと痛みを感じることはたまにあったから、それと同じようなことなのかなと思った。 私は子どもの頃から、いかんともしがたいアレルギー性鼻炎もちだ。小鼻の痛みについては、鼻炎の診察のついでにかかりつけの耳鼻科医に相談したことがあった。うろ覚えなので、今まさにそういっ

#日常#健康#暮らし

関連作品

疲れて鼻筋が腫れ痛い、思てたんと違う
疲れて鼻筋が腫れ痛い、思てたんと違う
エッセイ

2026/08/05 連載

疲れて鼻筋が腫れ痛い、思てたんと違う

古賀及子

2024年の春、鼻筋の真ん中が腫れた。 最初は何が起こっているのかよく分からなかった。以前から、たまになにかの拍子に小鼻が腫れて固くなり、押すと痛みを感じることはたまにあったから、それと同じようなことなのかなと思った。 私は子どもの頃から、いかんともしがたいアレルギー性鼻炎もちだ。小鼻の痛みについては、鼻炎の診察のついでにかかりつけの耳鼻科医に相談したことがあった。うろ覚えなので、今まさにそういっ

#日常#健康#暮らし