
小説
話子さんのはなし
滝口悠生
話子さんが毎朝起きる時間は日によってまちまちだった。年寄りだから、早起きである。 午前四時頃に目覚めて体を起こすこともあれば、六時くらいのこともある。平均すればだいたい五時頃が多い。夏ならば五時はもうすっかり日がのぼって外は明るいが、いまは冬だからまだ真っ暗だ。 山間の集落の外れにある話子さんの家の寝室は、一階の南側にある和室である。話子さんは眠るとき雨戸を閉てない。不用心だと思うが、頑とし

作家
1982年、東京都八丈島生まれ。2011年、「楽器」で新潮新人賞を受賞し、デビュー。15年、『愛と人生』で野間文芸新人賞を受賞。16年、「死んでいない者」で芥川賞を受賞。22年、『水平線』で織田作之助賞受賞。23年、同作で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。「反対方向行き」で川端賞受賞。他の著作に『寝相』『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』『茄子の輝き』『高架線』『やがて忘れる過程の途中(アイオワ日記)』『長い一日』『往復書簡 ひとりになること 花をおくるよ』(植本一子氏との共著)『ラーメンカレー』『たのしい保育園』などがある。