話子さんのはなし
あなたの考えを共有し、他の人の考えに耳を傾けてみましょう。
読者の言葉
佐野夕紀さん
性別:いずれでもない、好きな作家:池澤夏樹
話しているのは誰だろうと思いながら、糠床に突っ込む腕や、四十年着たセーターの補修のあとを一緒に見ていました。二階の物置に仏壇が押し込めてあると書かれたところで、ああ、と声が出ました。ずっと、隣に座って読んでいた。 結局誰なのかは教えてもらえませんが、語り手が毎日していることが切実に見えてきます。どこから来て、何をしに来たのかが分からないものを毎日眺め、推測を並べては引っ込める。ただし話子さんは不可視ではありません。全身くまなく見えていて、それでも同定できない。庭で空を仰ぐ彼女のほうが、この家に毎日現れる最大の未確認飛行物体です。 長生きを毛糸にたとえかけて自分で却下する箇所で笑いました。蛇口の一瞬の躊躇を、忘却ではなく朝の祈りかもしれないと言い直すのもいい。そして七時ちょうどの朝食だけは、解いても何にもならないと手を触れずに置いていく。諦めではなく礼儀なのかもしれないと思いました。 話子さんは、誰にも読まれないままあの家に残ります。
あおいさん
好きな作家:墨香銅臭
近所に住まわれていた老婦人のことを思い出しました。会話をしたことはなく、家と共に時を重ねられている感じがとても素敵でした。ある時から姿を見かけなくなり、家も壊されてしまいました。一度話がしてみたかった。私の想像はあくまで家屋に面した道路の外からのものです。「話子さんのはなし」では家の内側から豊かな日常が心に流れ込み、まるで近所の老婦人に再会できたような気持ちになりました。嬉しかったです。
渋谷遼典さん
30代、男性、好きな作家:ミラン・クンデラ、内田百閒、幸田文
校閲者です。 一つ一つの文章の精度の高さに、『茄子の輝き』のころから感嘆しながら拝読しています(滝口さんのゲラでの「直し」の凄さを皆さまと共有できないのが残念なくらいです)。 話子さんの暮らしの細部のリアリティ! 彼女の生活が持つ心地よい、どこか不思議な時間の流れを、読者は確かに共有する。だからこそ、中盤以降のぎょっとする(しかしあくまで淡々と綴られる)展開が、心地よい驚きとして読者を愉しませつつ、文章の終わりまで運んでいく。読み終えた読者は普段とは少し違った時間の流れに身を浸していたことにふと気づく。文章とリアリティということについて、改めて考えさせられました。 唐辛子についてなのですが、ぎりぎり初冬(11月ごろ)(参考 : https://agri.mynavi.jp/2021_02_13_148279/ )までは収穫できるようです......!
八朔さん
30代、女性、好きな作家:今村夏子
タイトルがとても素敵で、やられた、と思いました。話子さんの三つのお気に入りのくだりがわたしのお気に入りポイントです。また読みにきます
滝口悠生さん
40代、男性、好きな作家:藤枝静男
作者です。 公開されたものを自分で読んでみました。作品後半のうどんを食べるくだりで、「夏は庭に、冬は室内の窓辺に置いた唐辛子の鉢から赤くなった実をひとつちぎって、それをつゆに放り込んで」とありますが、考えてみると冬はいくら室内に鉢を置いていたとしても唐辛子の実はならないように思います。なので、話子さんは冬にうどんを食べるときは、夏に収穫して冷凍しておいた唐辛子の実を、冷凍庫から取り出して使っていたのかもしれません。
へやのかたすみさん
30代、男性、好きな作家:滝口悠生さん、朝比奈秋さん、中村文則さん
滝口さん独特の文体とストーリーで、この作品も楽しく(迷いながら?)読ませていただきました。 死者の視点、と言いましょうか、ひどく曖昧な視点だからこそ、老人の何気ない日常が、こんなにも愛らしく思えるのではないかと思います。他の作品もそうですが、滝口さんの作品を読むと、日々の日常を丁寧に生きたいと思えます。
春戸さん
20代、男性、好きな作家:織田作之助
癖や習慣を支えにすれば日々を安心して過ごせるのか、いやそれだけでは割り切れない不思議が、ラスト1行に至るような仕方で示されたら希望に思えてくる。読み終えて、布団の重さ軽さをめぐるあたりの話が、のしかかるように後を引いている。
たぬきさん
60代、男性、好きな作家:中上健次
話者が誰か分からないまま話しが進み、話子さんが何かも最後には分からなくなってしまった。神様の生活でも描いているのだろうか。神様の生活はちょっと退屈そうだなぁ。
Daikiさん
40代、男性、好きな作家:滝口悠生 安岡章太郎
物語の語り手が誰か、というか何かもわからないけれど、その世界にたしかに居て、「話子さんのはなし」をわたしたちにしてくれる。不思議だけれど、しっくりもくるようなその感じもとても良かった。

